もし契約書案がPDF形式で送られてきたら?――それでも修正したい人の対応方法

企業間で契約を取り交わすことになった場合、基本的には契約書を作成することになります。

契約書の作成にあたっては一方がドラフトを作成し、もう一方がその内容を確認後、場合によっては修正するという手段をよくとりますが、そんな折、相手方から送られたドラフトが PDF 形式だったがために、すぐに修正に取り掛かれなかったという経験をお持ちの法務パーソンも多いのではないでしょうか。

今回は、契約書のドラフトを PDF 形式で送付する背景や、そうされた場合の対応策について考察していきます。

法務における契約書案のやりとりの現状

契約書にはビジネス交渉の結果を落とし込みますが、必ずしもそれをそのまま問題なしとして承認できるものではありません。なぜならば、取引上の負担や法的なリスクについてはいまだ合意できていないところがあるからです。相手方が作成したドラフトの内容に合意できない場合は、該当箇所を修正した上でその事情を説明したコメントを付すなどして相手方に返送することも十分にありえます。取引の当事者には決裁事情や他の取引先との関係など様々なビジネス上の条件が存在することから、契約交渉が負担とリスクの押し付け合いでないといっても、最終的な合意に至るまでに修正のラリーが何度も続くことも考えられます。

このように、契約書のドラフトは、その後の相手方とのやりとりにおいて修正の可能性を含むものです。そうすると、契約書をパソコンでドラフトする際は、最終的なファイル形式は修正の余地を残すものでなければならず、また、それが修正されたときは記録が残るようなものである必要があります。

現時点では、契約書の作成や修正には、Microsoft Office Word(以下「Word」といいます。)が利用されることが一般的であるといえます。Word の「変更履歴の記録」機能を用いると、削除・追加された箇所がマークされたり、別のユーザーによる変更内容が異なる色で示されたりするなど、いつ誰がどこを修正したか簡易に把握できるため、現在、多くの法務パーソンが Word を利用しています。

このような意味では、契約書のドラフトを修正する際は Word の修正履歴機能を用いることが契約法務におけるある種のマナーとなっており、Word の修正履歴を用いない場合でも原案との相違部分を明らかにすることが相手方に対する配慮として必要とされているといえます。

契約書案のファイル形式が PDF であることの問題点

ところが、企業の中には、契約書のファイル形式を Word などではなく PDF で送ってくるところがあります。しかも、変更箇所を明示しないということさえあります。仮に PDF で契約書を受け取れば、法務における普及率が高いであろう Word などで修正履歴を付すことが困難となり、その契約交渉に支障を生じてしまいます。もちろん、契約書のファイル形式が PDF であるからといって必ずしも編集できないわけではありませんし、修正依頼書を作成して添付するなどすれば済む話ではあります。しかし、実際上は PDF 形式で契約書をやりとりすることによる時間的なロスは大きいと思われます。

そもそも PDF (Portable Document Format)は、その開発元である Adobe Systems 社の創設者が「どのアプリケーションの文書でもキャプチャし、どこにでもその文書の電子バージョンを送信して、どのコンピューターでも表示および印刷することが可能となる簡単なツールを提供すること」を目標に発足したプロジェクトの成果として、1992年に誕生しました(Adobe「Adobe PDF とは?」[2019.9.13 閲覧])

通常、テキスト形式の電子文書は、各コンピューターの設定の相違などに起因して、他のコンピューター上では元のレイアウトを保持したまま表示したり印刷したりすることができない場合があります。PDF は、このような事態を回避できるファイル形式として開発されたものであり、まさに Portable な文書形式が目指されたものです。「ソフトウェア、ハードウェア、オペレーティングシステムに関係なく、文書を確実に表示および交換するために使用されるファイル形式」と定義されているように、文書データを環境に左右されることなく「表示」し、画面に表示されたとおりに「印刷」できるといった特徴があり、現在、その表示や印刷に使われる無償のソフトウェア Adobe Reader は、PDF形式で作成されたパソコンのサポート資料を表示することを目的の一つとして、多くのパソコンにプリインストールされています。

しかし、当該ソフトウェアのみではデータ内容の「編集」まではできません。そのため、PDF 形式で送られた契約書のドラフトを修正するには、何かしら作業工程を挟む必要が生じるのです。

契約書案を PDF 形式で送付することのねらい

PDF 形式の契約書のドラフトを、これから契約を結ぶ相手に対して送るということは、「相手方に修正させたくない」という意図だと捉えられます。「自社に有利な内容のまま契約を締結したい」、「修正のラリーに時間的コストをかけたくない」などその理由は様々考えられるところですが、やはり「相手方に手を加えさせない」ということが、PDF形式で送付する側のねらいであると考えられます。

もっとも、以下に見るように、編集できないように PDF 形式で送付したところで、かえって時間がかかるだけであるというのが実情です。

相手方から契約書案が PDF 形式で送られてきたらどうすればよいか

それでは、相手方から契約書が PDF 形式で送られてきた場合に、相手方の契約書案を受け容れられないとしたら、どのように対応すればよいのでしょうか?

そもそも相手方に対し編集可能な契約書ファイルとしての再度の送付を依頼することが考えられます。また、送付されてきた契約書案を「突き返す」というのはひとつの手ではあるかと思います。たとえば、秘密保持契約書で自社しか義務を負わないものが PDF 形式で送られてきたときは、「双方平等に義務を負うものにしていただければ締結に支障ありません。」などといった旨を返答することが考えられるところです。とはいえ、相手方や契約書案の内容によってはそこまで粗い対応をすることができないこともあるでしょう。そこで、相手方から送付されてきたPDF形式の契約書案を修正する方法を以下で検討します。

有償ソフトウェアを別途導入する

Adobe Systems 社提供のソフトウェアAdobe Acrobat」を使用する方法です。当該ソフトウェアを使うと、PDF 上で直接データを編集することができます。しかし、有償のソフトウェアであるため、導入していない企業からすると、PDF 形式で送付された契約書案を修正するためだけに金銭的コストをかけなければならなくなるという点で不合理であることは否めません。

文書を Word 上で編集する

Adobe 社のサービスを用いずに編集する手段として、Word の機能や他のソフトウェアにより PDF データを編集可能な Word ファイルに変換し、あるいはコピー&ペーストで手作業により PDF ファイルから Word ファイルにテキストデータを移して Word 上で修正できるようにする方法が考えられます。

Word の機能により PDF データを編集可能な Word ファイルに変換する方法については、編集したい PDF ファイル上で右クリックし、「プログラムから開く」から「Word」を選択することでデータを Word 形式で開くことができるため、その後 Word 上で契約書案の編集が可能となります。(「プログラムから開く」で「Word」が表示されない場合は、代わりに「別のプログラムを選択」を選択し、それでも「Word」が表示されない場合は「その他のアプリ」を選択することで、「Word」が選択できるようになります。)金銭的なコストはかかりませんが、Word 上ではテキストが編集しやすくなるようにデータの最適化が行われるため、PDF 形式のままのレイアウトが保持されない場合もあります。そうなったときは修正前に文書の体裁を整える必要が生じるため、時間的なコストがかかります。

他のソフトウェアにより PDF ファイルを編集可能なWordファイルに変換する方法については、ネット上で配信されている無料のファイル変換ソフトウェアをダウンロードし、当該ソフトウェア上で PDF ファイルを Word ファイルに変換します。無料のソフトウェアを選択すれば金銭的コストはかかりませんが、提供元の会社の評判やサポートの充実性などを確認し、ソフトウェアの信頼性等を使用前によく見定める必要があります。

修正点を相手方に送る

いわゆる「サイドレター」的な方法です。契約書案のファイルそのものを修正するのではなく、電子メールの本文や電子メールに別途添付する修正依頼書に修正内容を記載して相手方に修正を依頼する方法をとることが考えられます。この場合、修正依頼文を作成する手間が余計に生じるデメリットがあります。修正依頼の反映については相手方が行うことになり、その意味で相手方に手間をとらせることにもなります。また、提案した修正が適切に反映されているか、修正したとされる後の契約書案を再度入念に確認することになり、その部分で負担になることもあります。

電子メールによる修正依頼の際は、たとえば、次のような文例が考えられるところです。なお、修正依頼書を別途で Word により作成して添付するときは、その修正依頼書中に同様の内容を記載します。

修正依頼文の記載例

●●様

お世話になっております、●●の●●です。

先日頂いた契約書案でございますが、以下のように修正をお願いしたいと存じます。

何卒よろしくお願い致します。

———

第1 第●条につきまして

【原案】
第●条(●●●)
1 ●●●●●●●●●●●●…。
2 ●●●●●●●●●●●●…。

【修正案】※赤字は修正箇所。
第●条(●●●)
1 ●●●●●●■■●●●●…。
2 ●●●●●●●●●●●●…。

【修正意図】
●●●●●●●●●●●であることから、●●●●●●●●●●●●とさせていただきたいと存じます。

第2 第●条につきまして

〔以下略〕

PDF 形式の契約書案を受け取った場合の修正手段は上にあげた方法が代表的といえますが、ほかにも考えられるかもしれません。いずれにせよ、自社が割ける金銭的コスト、時間的コスト、相手方との関係性などを鑑みて、自社にとって最善の方法を選択することになります。

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