【解説】期限の利益喪失条項

第○条(期限の利益の喪失)
甲又は乙は、以下の各号に規定する事由に該当した場合には、相手方に対する一切の債務について当然に期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。
(1) 本契約(個別契約が存在する場合には個別契約を含む。)の各条項に違反し、相手方による相当期間を定めた催告にもかかわらず当該期間内にこれを是正しないとき
(2) 監督官庁より営業許可取消し、停止その他行政処分を受けたとき
(3) 支払不能若しくは支払停止の状態に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
(4) 仮差押え、仮処分、強制執行若しくは担保権の実行としての競売の申立て又は公租公課の滞納処分のあったとき
(5) 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始若しくは特別清算開始の申立てがあったとき
(6) 解散、事業譲渡、会社分割、合併の決議があったとき、又は資本の減少、営業の廃止若しくは変更があったとき
(7) 資産、信用又は支払能力に重大な変更を生じたとき
(8) その他前各号に準ずる事由が生じたとき

要件および効果の概要

要件

  • 列挙された事由に該当すること。

効果

  • 期限の利益の喪失(履行期を待たずして履行義務が発生)。

この契約条項の趣旨

この契約条項は、主として売掛金などの金銭債務の履行を担保するための条項です。この条項があることにより相手方の資力などに疑義や不安が生じたときに弁済期の到来していない金銭債権の速やかな回収を期待することができます。取引基本契約書が必要な継続的売買などによく見られる一般的な条項であり、お金を支払ってもらう側からすると契約書に入れておくべき必須の条項であるといえます。逆に、お金を支払う側からすれば、あえて盛り込むような条項ではありません。

売掛代金債権とは何か

契約によって生じた債務の弁済期は、原則として、契約締結の時点です。たとえば、売買代金債務であれば、売買の合意があった時点で、一方が商品を引き渡して他方が代金を支払うことが原則となります。私たちがコンビニエンスストアなどで日常的に行っている売買をイメージしてもらえればわかるかと思います。このような原則になっているのは、歴史的には、契約の時点で同時にモノとカネを交換しなければ一方からの履行の提供を受けた後に逃亡できてしまい取引として損をする可能性があったからです。

しかし、現実のビジネスの大半は、まず原材料となるものなどを仕入れて、その後にそれを加工して、最後に商品として売るという過程をたどります。つまり、お金が入ってくるのは最後の過程である商品の販売まで待たなくてはなりません。もっとわかりやすくいえば、最初にお金が必要となるにもかかわらず、お金が入ってくるのは最後ということです。このような不都合を解決するのが「金融」です。金融とは、「将来のお金」と「現在のお金」を交換することです。たとえば、最初にお金を借りてあとで返したり、代金の支払い自体を後に回してもらったりするわけです。後者のパターンでいまだ支払われていないお金のことを「売掛金」と呼んでいます。なお、もともとは経理用語です。

【ビジネスの基本的な流れ】

  1. 仕入れ ← ここでカネが必要
  2. 加工
  3. 販売 ← でもカネが入ってくるのはここ

このように、「通常の売買代金」と「売掛代金」の違いは、金融機能を持っているかどうかです。これを法的な次元に引き直すと、弁済期という「期限」の附款(特約)がついているかどうかということになります。そして、原則的な形態である売買代金債権に「期限」が付されたものを「売掛代金債権」などと呼びます。

「期限の利益」とは何か

取引実績や経済的な信用がなければ代金の支払いは先払いや納品と同時の支払いでお願いされることが多いでしょう。徐々に取引実績ができてきたり、経済的な信用力がついてきたりすると、代金の支払いを将来の時点に先延ばしにすることに応じてくれるようになります。つまり、後払いができるようになります。簡単にいえば、これが「期限の利益」であり、金銭債権についていえば、要するに金融の便宜のことです。お金を貸しているのと同じ状態になるわけです。

ここで改めて定義しておくと、期限の利益とは、期限到来しないことによって当事者の受ける利益をいいます。たとえば、自社が取引先に対して 100 万円の売掛金があったとして、2019年4月1日を期限にすることを合意したとき、自社は同日 0:00 になる瞬間まで取引先に 100 万円を支払えとは法的にいえません。このように、期限まで義務を負わないことを「期限の利益」と呼んでいます(民法136条1項参照)

そして、民法上は、次の3つの場合に期限の利益を失う(期限を待たずに義務が発生する)ものとされています(民法137条各号)

1. 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
2. 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
3. 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

要するに、民法上は債務者の資力が悪化して債務の履行が期待できなくなった場合に、期限の利益を喪失することになっています。上の例では、つまるところ取引先の手持ちのお金が少なくなって破産するレベルになったら、自社は取引先に対してカネを返せといえるわけです。

しかし、民法の規定では上の3つの「期限の利益喪失事由」しか記載がなく、まったく実用的ではありませんし、たとえその事由が発生しても債権者からの意思表示が債務者に到達(債務者の知ることができる範囲に置くこと。実務上は配達証明付きの内容証明郵便を用いる。)しないと期限の利益を喪失させることができません(民法97条1項)。そこで、契約書では期限の利益喪失条項という形で、期限の利益喪失事由を大幅に増やしておき、意思表示を行うことなくその事由が発生した時点で期限の利益を喪失させるという措置がとられることになります。なお、自動的に期限の利益を喪失させることが好ましくない場合には、一方当事者からの「請求により」期限の利益を喪失させるという書き方にすることで回避することができます。

各列挙事由の趣旨

履行遅滞(催告+相当期間の経過)

本契約(個別契約が存在する場合には個別契約を含む。)の各条項に違反し、相手方による相当期間を定めた催告にもかかわらず当該期間内にこれを是正しないとき

この項目を入れるのは、いまだ遅滞に陥っていない残りの債務に言及する必要があるからです。相当期間を定めて催告したにもかかわらず相当期間を経過すれば、「履行遅滞」(あるいは「追完可能型不完全履行」)という債務不履行に該当します。しかし、法律上の原則では、債務不履行に陥ったとしても、直ちに残りの債務の全額を支払わなければならないわけではありません。問題とされているのは、あくまでも期限どおりに履行されていない債務だけだからです。たとえば、合計 90 万円の売掛金につき1か月あたり 30 万円を支払っていく合意をしていたとしても、1か月分を滞納しただけでは、その滞納分しか支払いを請求できず、残りの 60 万円は期限の到来を待たなければなりません。とはいえ、1か月滞納すれば、次の分も支払ってもらえないのではないかと不安に思うのが当然でしょうし、取引先の資金繰りがうまくいっていないことは十分に考えられます。そこで、履行遅滞が発生した瞬間に期限の利益を喪失させ、残りの債務についても直ちに全額を支払ってもらうようにする手当てをしておく必要があるわけです。

営業許可取消処分などの行政処分

監督官庁より営業許可取消し、停止その他行政処分を受けたとき

この項目を入れるのは、行政処分により債務者の営業の続行が困難になり、その結果として資金繰りが悪化することが予測されるからです。取引先の中には、行政の規制上、その監督官庁から営業の「許可」を受けてビジネスを行っているところがあります。「許可」となっていますが、現実の行政法規は「許可」、「認可」、「免許」、「登録」などと様々な表現を用いていますし、行政法学上も用語法がそこまで一定していないので、この文脈における「許可」の文言は、それらの概念を包括するものとして捉えておくのが賢明です。つまり、行政規制をクリアしている状態を指すものと考えることになります。仮に「許可」を得ずに営業をしていたとしても取引自体は必ずしも無効とはなりませんが(民法90条参照)、適法に営業を継続できない以上、取引先が営業によって利益を上げることを想定するべきではないでしょう。したがって、「許可」を得ずに営業を行うことは困難だと考えられますから、「許可」がなくなった時点で資金面の悪化の予測が成り立つのです。なお、「取消し」についても、行政法学上の「職権による取消し」(もともと「許可」すべきでないものを「許可」していた)と「授益的処分の撤回」(あとから「許可」すべきでないと判断できる事情が出てきた)の2つが含まれると考えるほうがよいと思われます。営業の続行が当面の間は困難という意味では、営業の「停止」の行政処分でも同様のことがいえます。

また、営業許可の取消しや停止のほかにも懸念すべき「行政処分」がありうるかもしれません。この「行政処分」という概念は、法律上は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行訴法3条2項参照)のことですが、その内容は難解です。さしあたり、この契約条項との関係では、「行政処分」には行政指導(行手法2条6号)が含まれないという程度に押さえておけばよいのではないかと思われます。行政指導を受ければ実際上はブランドに傷がつくこともありえますが、直ちに経済的信用に影響するほどのものではないと考えられます。したがって、多くのケースでは、より影響の大きい行政処分を規定に盛り込めば足りると考えられます。

破産手続開始原因事実とその周辺

支払不能若しくは支払停止の状態に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき

いずれも破産手続開始原因事実について述べたものです。上で見たように、民法上の期限の利益喪失事由は「債務者が破産手続開始の決定を受けたとき」ですが、裁判所の決定を待たずとも決定の原因となる事実があれば資力の悪化を示すものとしては十分であると考えられます。

破産手続開始原因事実の原則は「支払不能」です(破産法15条1項)。支払不能とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」を指します(破産法2条11項)。用語法がややこしいですが、「一般的」かつ「継続的」であることが要求されています。要するに、債務の一部だけを弁済できない場合や、一時的な資金繰りの行き詰まりの場合は「支払不能」に該当しません。

それでは何が「支払不能」にあたるのかというと、実際上、判断は困難です。そこで、破産法は「支払停止」があれば「支払不能」を推定するという構造をとります(破産法15条2項)。この「支払停止」とは、支払不能の外部表示行為のことです。たとえば、いわゆる夜逃げや銀行取引停止処分(正確には「手形交換所の取引停止処分」)がこれに該当します。手形交換所の取引停止処分とは当座預金が凍結されることですが、これは6か月以内に2度の「不渡り」を出すことで出されます。「不渡り」とは、簡単に言えば、債務不履行のことです。しかし、手形交換所の取引停止処分まで待っていたら債権は回収できません。そこで、破産手続開始原因事実ではないものの、進んで手形や小切手の「不渡り」を要件に設定することが考えられるのです。

なお、法人の場合には「債務超過」も破産手続開始原因事実ですが(破産法16条1項)、間接金融(株式などではなく金融機関からの借入)を資金調達の中心とする日本の企業にとっては厳しいと考えられているためか、契約条項中に入れないことがほとんどではないかと思われます。

民事保全・民事執行・滞納処分

仮差押え、仮処分、強制執行若しくは担保権の実行としての競売の申立て又は公租公課の滞納処分のあったとき

この項目を入れるのは、民事保全や民事執行がかけられるような切迫した状況をもって弁済の期待がなくなったと判断するからです。金銭債権を回収するためには、最終的に強制執行をかける対象となる財産(責任財産)を確保しておく必要がありますが、その第一歩が民事保全手続であり、金銭債権の回収であれば「仮差押え」が選択されます(民保法20条1項参照)。これが「強制執行(民執法1条参照)までいくと「差押え」(からの換価手続)になります(民執法45条1項など)。「担保権の実行としての競売(民執法1条参照)も類似の状況であるといえます。

公租公課の滞納処分(国税徴収法47条以下、地方税法などを参照)も基本的に強制執行と同じであり、「行政執行」と呼ばれます。行政といえども自力救済禁止の原則が妥当しますから、本来は、行政は裁判手続によらずに自力で執行をかけられません。ところが、裁判所の負担増を回避する必要があり、また、行政権が三権のうちのひとつであって適正手続(憲法31条参照)に服することを許容性の理由にして、特定の条件下で例外的に行政自身による自力執行を認めました。具体的には、金銭債権にあたるものであれば、国税徴収法などを根拠に滞納処分を認めたのです。「租税」と「公租」は同じ意味であり、国税と地方税を指します。「公課」は、租税ではない公的な負担金、たとえば、租税類似の社会保険料などのことをいいます。そうであれば、契約条項としては「公租公課の」滞納処分という書き方がよいのではないかと思われます。

倒産手続開始の申立て

破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始若しくは特別清算開始の申立てがあったとき

この項目を入れるのは、倒産手続を開始する申立てがあれば、その開始原因事実の有無などの実体にかかわらず資力の悪化を認めてよいと判断するからです。資力悪化の実体ではなく、それに関する「申立て」という形式的な手続に注目するわけです。比喩的に言えば、火ではなく煙を見て判断するようなものだといえます。この判断基準によれば、手続開始の申立てから手続開始の決定が出されるまでの間のタイムラグをなくすことができるというメリットがあります。

倒産」とは、債務者が自ら負っている債務を返済できなくなった経済状態にあることをいいます。これは講学上の概念であり、法律上の概念ではありません。そして、倒産に関する手続の開始は「申立て」によります。倒産法制には様々ありますが、具体的には、破産については「破産手続開始の申立て」(破産法第2章第1節)、民事再生については「再生手続開始の申立て」(民事再生法第2章第1節)、会社更生については「更生手続開始の申立て」(会社更生法第2章第1節)、特別清算については「特別清算開始の申立て」(会社法511条)の4つの申立てがあります。

会社再建関係

解散、事業譲渡、会社分割若しくは合併の決議があったとき、又は資本の減少、営業の廃止若しくは変更があったとき

この項目は、会社に大きな変革があった場合に備えるものです。一般論として、会社の財務状態が悪化すると、会社を解散して潰したり、会社を売却して再生させたり、会社の資本を減らして新たな資本を注入したりすることになります。ここから逆算して、契約書上の手当てとしては、このような動きがあった時点で会社の資力が悪化したと判断するということになります。具体的には、解散決議や M&A に関する決議、資本の減少、営業の廃止・変更です。

「解散」とは、株式会社といった法人について法人格の消滅の原因となる事由のことです。たとえば、会社は株主総会の決議によって解散します(会社法471条3号)。解散は株主の利益に重大な影響を及ぼすので、株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項11号)。「決議」を要件とせず単に「解散があったとき」とだけ記載すると、定款の存続期間満了、定款の解散事由の発生、破産手続開始決定、解散判決、解散命令が含まれます。また、「事業譲渡」、「会社分割」、「合併」は、いわゆる M&A のことであり、いずれも株主総会の特別決議が必要です。

「資本の減少」とは、いわゆる「減資」のことをいい、会社法制定以降は「名目上の減資」を指します。名目上の減資とは、貸借対照表上の資本金の額の減少を意味します(会社法447条1項)。減資するような状況というのは財務状態が悪化したときですから、これを基準にするわけです。

「営業の廃止若しくは変更」とは、つまり、ビジネスをやめるときや今のビジネスから別のビジネスに変更するときのことをいいます。形式的には定款変更の特別決議などに着目することになります。

cf. 権利義務譲渡禁止条項

資産や信用などの重大な変更

資産、信用又は支払能力に重大な変更を生じたとき

この項目は、商業与信に対するネガティヴな影響に備えるものです。会社の「資産」に重大な変更があることは、もともと信用の基礎にしていた利益構造に重大な変更があり、将来にわたる利益が出ないことがありうることを意味します。非常に大雑把に言えば、資産をベースにした利益構造が商業与信の基礎となっているということです。たとえば、これまで使っていた工作機械を別の機械に変更してしまうと、これまでのようにその工作機械で製品がつくられないことも考えられ、場合によっては利益を出すことができなくなってしまうこともありえます。これは資産という実態に即した見方ですが、評価の点から表現すれば会社の「信用」に重大な変更があることになります。これに加えて、あえて「支払能力」を入れるとすれば、よりファンダメンタルな判断を重視するということになるでしょうか。

包括条項/バスケット条項

その他前各号に準ずる事由が生じたとき

「その他」の内容は不明瞭であるため、いざ金銭債権の回収の段になると争われやすく、基本的には、この項目に対する過度な期待は禁物です。契約書レビューでこれまでの列挙事項のうちの何かひとつを偶然に見落としたとしても助かるかなというかんじで、お守り程度に入れておくことになります。

解除事由との関係について

期限の利益喪失事由は、解除事由と一致させておくべきです。なぜならば、契約条項のレビューコストが無駄に大きくなってしまうからです。たとえば、期限の利益喪失事由と解除事由を分けて記載していた場合、いずれかに記載漏れがあるという事態が生じてきます。理論的には期限の利益喪失事由と解除事由とは異なるはずですが、日々厳密に書き分けてレビューすることの意味があるとは言い難いと思われます。

cf. 解除条項

レビューにおけるポイント

第○条(期限の利益の喪失)
甲又は乙は、以下の各号に規定する事由に該当した場合には、相手方に対する一切の債務について当然に期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。
(1) 本契約(個別契約が存在する場合には個別契約を含む。)の各条項に違反し、相手方による相当期間を定めた催告にもかかわらず当該期間内にこれを是正しないとき
(2) 監督官庁より営業許可取消し、停止その他行政処分を受けたとき
(3) 支払不能若しくは支払停止の状態に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
(4) 仮差押え、仮処分、強制執行若しくは担保権の実行としての競売の申立て又は公租公課の滞納処分のあったとき
(5) 破産手続開始再生手続開始更生手続開始若しくは特別清算開始申立てがあったとき
(6) 解散事業譲渡会社分割合併決議があったとき、又は資本の減少営業の廃止若しくは変更があったとき
(7) 資産、信用又は支払能力に重大な変更を生じたとき
(8) その他前各号に準ずる事由が生じたとき

この条項は、細かいチェックポイントが多いので注意が必要です。

  • (対象)「一切の」債務となっているか。
  • (緊急性)「当然に」期限の利益を喪失させるのか、「請求により」期限の利益を喪失させるのか。
  • (列挙事由の内容)各要素が入っているか。

参照情報

(平塚)

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