【解説】管轄条項(第一審の専属的合意管轄裁判所を定める旨の条項)

第○条(管轄)
本契約に関する一切の紛争については、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

要件および効果の概要

違反の要件

  • 本契約に関する紛争であること。
  • ●●地方裁判所以外の裁判所に提訴したこと。

違反の効果

  • 管轄権のある●●地方裁判所に移送。

この契約条項の趣旨

この契約条項は、紛争が顕在化した際に威力を発揮する条項です。この条項があることにより遠方の裁判所で審理が行われることを防ぐことができます。遠方の裁判所で審理が行われれば、裁判所に赴くための金銭的・時間的コストがかかってしまいます。たとえば、担当者の交通費や宿泊費、訴訟代理人弁護士の実費などです。会社の所在地が東京で管轄が那覇地方裁判所の場合には、東京から沖縄までの交通費だけで2~3万円はかかります。現在の民事裁判実務では、期日は約1~2か月の間隔で何度も開かれるものですから、相手方に遠方の裁判所で提訴されれば、その都度、自社と裁判所を往復するコストがかかってしまいます。

管轄、合意管轄、専属的合意管轄

管轄とは、官署としての裁判所(国法上の意味の裁判所)の権限を行使できる地理的範囲をいいます。つまり、物理的な建物としての裁判所のパワーが及ぶ地域ということです。「管轄裁判所」は、その地理的範囲について権限を有する裁判所のことです。たとえば、東京地方裁判所や大阪地方裁判所などのことです。

管轄には、土地管轄、事物管轄、合意管轄などがあります。このうち、合意管轄とは、契約当事者が合意により任意に定めた裁判所です。契約当事者の合意によって管轄裁判所を定めると、紛争が生じたときに提訴できる裁判所の選択肢が増えます(競合的/付加的合意管轄)。さらに、「合意管轄裁判所」という文言に「専属的」という修飾語が加わると、契約当事者の合意で定めた裁判所以外の選択肢を排斥することができます。このような裁判所のことを「専属的合意管轄裁判所」と呼びます。たとえば、東京地方裁判所を「第一審の専属的合意管轄裁判所」に設定した場合、自社が大阪にあったとしても大阪地方裁判所に提訴することは法的な意味でできなくなります。無理やり提訴すると東京地方裁判所に移送されてしまい、東京地方裁判所で審理されることになるのです(民訴法16条1項/必要的移送)。訴えの却下とはなりません。仮に専属的合意管轄裁判所が定められていないとすると、法律上の原則どおり、土地管轄などで裁判所が決まります。この土地管轄の問題はわりと複雑なので、場合によっては、予期しない場所の裁判所で審理が行われることにもなりかねません。

要するに、「専属的合意管轄裁判所」を契約条項として定めておくことで、審理する裁判所を事前に選択しておくことができます。基本的には、自社の所在地から最もアクセスのよい裁判所を選択するとよいと考えられます。なぜならば、一般論として、裁判所に赴くコストが低いと考えられるからです。なお、どこにどのような裁判所があるかという点については、裁判所 HP 「各地の裁判所一覧」がわかりやすいかと思います。

専属的合意管轄と訴訟手続に関する合意の有効性

ところで、そもそも訴訟手続に関する合意は無効となるはずです(任意訴訟禁止の原則)。なぜならば、裁判手続を支配するのは当事者ではなく裁判所であり、また、当事者に訴訟手続をコントロールさせると訴訟手続自体が全体として安定しなくなってしまうからです。もっとも、当事者の権限が及ぶ範囲内であって、かつ、効果の予測可能性があるものについては、例外的に有効だと考えられます。この点で、管轄条項は、当事者の訴訟開始権限の範囲内だといえますし、どこの裁判所に提訴できるか明確なので、有効であるといえます。そこで、民事訴訟法では、明文で第一審の合意管轄を認めました(民訴法11条1項参照。ただし、法定の専属管轄を除くことにつき、同法13条1項参照)

もっとも、「合意管轄」だけでは、提訴者にとって管轄の選択肢が増えるだけで、必ずしもその裁判所が選ばれるわけではありません。そこで、前述のように、「専属的」という修飾語を加えることで、まさにその選択した裁判所だけに限定することができるのです。専属的合意管轄裁判所を当事者だけで決めてしまって本当に不都合を生じないのか、もし自分にとって不当に遠方の裁判所を設定されてしまったらどうしようか、といった疑問も出てきて当然だと思います。そこで、民事訴訟法では、そのような場合に備えて、裁判所の判断により適切な裁判所へ移送できる旨規定しています(裁量移送/民訴法20条1項括弧書、同法17条参照)。もっとも、このような措置は、ある意味で緊急時に最後の手段として用いるものなので、基本的には管轄条項で手当てしておくべきであるといえます。

補足

以下3点を補足しておきます。

第一に、「甲乙間で生じた一切の紛争」などとしてしまうと、合意管轄としては無効になってしまいますので、一応、注意が必要です。なぜならば、管轄裁判所の合意は「一定の法律関係」に基づく訴えに関するものであることが要求されるからです(民訴法11条2項前段参照)。合意管轄の対象となる紛争を無限定にしてしまうと管轄条項自体が無効となりますので、「本契約に関して生じた一切の紛争」という程度で結構ですから、何かしらの文言で限定を加えておく必要があります。

第二に、あまり気にする必要はありませんが、事物管轄(裁判所法33条1項1号参照)についても合意によって定めることができます。つまり、地方裁判所か、簡易裁判所か、という点です。

第三に、調停に関する管轄については、管轄条項の効力が及ばないと考えておくべきです(大阪地決平成29年9月29日判時2369号34頁参照)。したがって、あらかじめ調停場所を選んでおきたいということであれば、別途でその旨の条項を入れておく必要があります。関連判例の認知度や解釈の問題もありますが、実際には、調停場所を定める旨の条項まで入れることは稀です。

レビューにおけるポイント

第○条(管轄)
本契約に関する一切の紛争については、●●地方裁判所第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

  • (対象)一定の法律関係に限定しているか。
  • (内容・公平性)自分の会社からアクセスのよい裁判所となっているか。
  • (記載の正確性)正確に「第一審の専属的合意管轄裁判所」という文言となっているか。

参照情報

  • 関連条文:民訴法11条、13条、16条、裁判所法33条
  • 関連判例:大阪地決平成29年9月29日判時2369号34頁
  • 裁判所 HP 「各地の裁判所一覧

(平塚)

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